そうめんの日のこと

その日は6月にもかかわらず異様に暑かった。
お昼にそうめんを食べようと、薬味のネギを準備中、
慌てていたら、人差し指を負傷してしまった。
結婚祝いに父からもらったばかりの包丁はよく切れたから、
自分の指から流れる鮮やかな赤色に参ってしまった。

庭にいた夫に、指を差し出して報告し、
私はもはや貧血で、お勝手の椅子にもたれるのがやっとだった。
薄眼を開けたら、ドア越しに、夫が正座していた。
救急セットと真剣ににらめっこしている。

でもなぜか、あぁ、きっと大丈夫だ。
この人と結婚して良かった。
気が動転していたせいか、そう思えて、なんだか涙がこぼれた。

夫は私の指をまじましと見て、血が止まれば平気だと、おろしたてのタオルを縛ってくれた。
その言葉はとても心強く、私は横になり、そのまま指を握って目をつぶった。

ふと気がつくと、お腹のすいた夫はそうめんを茹で、ネギも一緒に食べている。
なんだかなぁ、と笑えてくる。

しっかり2人前のそうめんを食べ終えた夫は私の横へ来て昼寝を始めた。
大きなからだなのに、添い寝する猫のようなたたずまい。
安心した私はいよいよお腹がすいてきた。

お湯を沸かし、すやすやと眠る夫の傍で、カップメンをすすった。
寝息が聞こえる。しょうゆスープの湯気。
さっきまでの世紀末のような騒動が嘘のように、平和な空気に包まれる。


左の人差し指を見る。
そろそろ傷はわからない。
だけど、あの日のことを思うと、夫のことが愛おしくてたまらなくなる。

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